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泣くな、はらちゃん 泣くな、メーテル (改訂版)

以下の記事は平成25年4月5日付で公開したものです。今回、著作権法(DMCA法)違反の指摘を受け、平成28年8月3日に元の記事は凍結となりました。
歌詞の引用が抵触したものとみなして、この点を訂正して再登録しました。
今回の指摘を機に、歌詞の引用を含めて対応してまいります。



「泣くな、はらちゃん」は平成25年の1月から3月にかけて日本テレビ系列で放送された全10話のTV劇だ。アニメではないが、一部にアニメを使用しており、僕はこの物語が大好きになってしまったので、紹介する次第だ。
日本テレビ系列の土曜午後9時枠という人気番組が多く生まれた時間帯で放送されたが、地味に始まり地味に終わった印象だった。しかしながら、好きな人はとても大好きという評価を得ているようだ(※1)。
内容は大人のためのお伽話であり、その仕上がりは一級品だと思う。きっちりと物語を語り終えて終了した清々しさがある一方、僕としては終わってしまった寂しさを感じている。
脚本:岡田惠和、演出:菅原伸太郎、狩山俊輔、松山雅則、音楽:井上鑑、主演男優:長瀬智也(※2)、主演女優:麻生久美子(※3)、漫画提供:ビブオ(※4)の布陣。
素敵な物語を提供してくれた製作関係者に拍手を贈りたい。

主人公は、自己表現が苦手で、周囲との人間関係に苦痛を感じている越前さんという女性。彼女は日々、仕事や生活の中で溜まるうっ憤を、趣味で描いている漫画の中で登場人物たちに代弁させるという、あまり楽しそうではない毎日を過ごしていた。そんな彼女が描く漫画の中から登場人物が現実の世界に飛び出してきて、越前さんを戸惑わせるというのが物語の骨子になっている。その漫画の登場人物の一人が、題名にもなっている「はらちゃん」なのである。
いわゆる売れ線狙いのTV劇とは異なり、物語の展開は地味だ。派手な事件は起こらない。というか、「はらちゃん」の出現自体が事件なのだ。静かに物語は進み、静かに美しく終わる。通過儀礼としての厳しい展開が第9話で起こるが、それも主人公を追い詰めるような、意地悪な展開とはならない。
あくまで、人々の成長のための物語が描かれている。

さて。
第1話をみて、僕は少し興奮した。
おもしろい! 絶対におもしろいよ、このお話!!
でも、(大衆的な)人気は出ないだろうな
・・・と。
数々の高視聴率番組を送り出してきた時間帯の番組であるにも関わらず、ずいぶんと視聴者の対象を絞った内容に思われた。都市部を舞台にした華やかさもなく、よくあるねじくれて誇張された人間関係も、刺激を求めての歪な人物描写もない。舞台設定も何もかも地味で、配役も主演の長瀬と関ジャニ∞の丸山隆平を除けば、知名度よりも演技力を優先して俳優を揃えた印象だ。主演の麻生久美子にしても、堅実に仕事を重ねているが、最近のTV出演に限って言えば登場頻度は少ないように思う。
舞台になるのも地方の港町で、主人公の越前さんが勤める職場はかまぼこ工場と、華やかさは微塵もない。まるでNHKのTV劇のような地味な舞台設定ではないか。
越前さん以外の女子と言えば、中学生がそのまま大人になったような、これまた自己表現がうまくない、ちょっぴりスネンボな紺野清美(配役:忽那汐里)くらい。あとは僕たちの世代にはど真ん中アイドルの薬師丸ひろ子(※5)が登場するが、主人公たちを見守る立場の女性を演じているが、あくまで脇役だ。
物語の中で越前さんの住む現実世界と「はらちゃん」たちの住む漫画の世界とが入れ替わり描写されるが、漫画の世界は居酒屋の一室だけの限られた空間だけだ。そのため、漫画世界の場面は舞台劇を見ているような感覚になった。
また、何といっても主題歌「私の世界」が子供合唱曲なのである。
今時、そんな主題歌あるか?
どことなく実験的。
やはり、地味。
これでは到底、高い視聴率は望めないと僕には感じられた。実際にも平均視聴率はほどほど(10%程度)だった。最終回が特別枠になることもなく、ひっそりと、よく言えば打ち切りにもならず、無事に予定通りに終了した印象だった。
でも、地味だったが、地味だからこそ、観ていて幸せな気分になれる物語だった。ちょっぴり「龍神マブヤー」の第一作目に通じる幸福感だ。
しかし、数字が全てのいまのTV業界で、よくぞこんな物語を放送したなと思う。というか、よくぞ企画が通ったなと思う。勝算はあったのだろうか。それとも、低視聴率も覚悟の上で、それでも「好きだとわかってくれる視聴者は絶対にいると思うから作ろうよ」という気概だったのだろうか。
僕などは平均視聴率10%を切るんじゃないのかと心配してしまった。結果として、全10話の平均視聴率10.24%だという。決して高い数字ではないが、以下の記事をみてみると、他の番組と比べてみれば、まあ合格点ではあったようだ(※6)。
Audience Rating TV

漫画世界の住人である「はらちゃん」は、純粋無垢な存在として描かれている。越前さんが漫画に描いたことしか知らない。現実世界に飛び出した「はらちゃん」は、自分の造物主である越前さんを神様と呼び、現実世界のあれこれを次々と質問する。
「はらちゃん」は自分の気持ちを隠さない。率直に声に出して伝える。
知らないことがあれば、「あれは何ですか?」と質問する。
気持ちや感情についても、それがどういうことか質問する。
そして、「越前さんが好きです」「越前さんと両想いになりたいです」と、朗らかに、幸せそうに気持ちを伝える。
「はらちゃん」はよくしゃべる。饒舌ではないが、伝えたいことは必ず口にする。日本人は「以心伝心」という概念を好み、「空気を読め」と言う。だが、「はらちゃん」はそういうことはしない。
なぜなら、「気持ちは伝えようとしなければ、絶対に伝わらない」ということを伝えたくて、岡田惠和が脚本を書いているからなのだろう。それがこの物語の主題だったのだろう。
そう、僕は感じた。
「はらちゃん」は最後まで語り続ける。気持ちを伝え続ける。
‐気持ちは伝えようとしなければ、絶対に伝わらない。
「はらちゃん」の気持ちが伝わった時、越前さんもようやく気づいたのだ。
‐気持ちは伝えようとしなければ、絶対に伝わらない。
何度も何度も気持ちをはっきり伝える「はらちゃん」の姿をみて、越前さんは自分に欠けていたものを自覚した。それこそが、越前さんの成長に必要な通過儀礼だったのだろう。通過儀礼を終了した越前さんは、「自分の気持ちを他者に伝えられる」ようになった。
‐そうか、「はらちゃん」がずっと語り続けていたのは、越前さんを導き、成長させるためだったのか、越前さんに「気持ちを伝えることの大切さ」を教えてくれていたのか。
最終回を観ていて、僕自身も「はらちゃん」のふるまいの意味に気づいて胸が熱くなった。泣いてしまった。
気持ちを伝えることは、相手を求めることであり、それが強い愛情になったり、人と人とが支え合う心につながっていくのだと思う。岡田は饒舌に語って説明するのではなく、ただただ「はらちゃん」の行動と、彼がひたすらに語る素朴な言葉の積み重ねだけで、僕にそれを伝えていた。
見事だと思う。一級品の脚本だ。


この番組は長瀬を念頭において、岡田が脚本を書いたという。それにしても、こうした企画が実現したのも岡田の実績があればこそだろう。
ウィキペディア:泣くな、はらちゃん

主題歌の「私の世界」についても触れておこう。表面上、主題歌はTOKIOの「リリック」でこの歌は挿入歌とされているが、物語の根幹に関わっている点では、紛れもなく主題歌である。「コスモスに君と」と同様の立場だろう。作詞:岡田惠和、作曲:井上鑑、歌唱:かもめ児童合唱団の布陣。

はらちゃんの歌 - 日本テレビHP


・・・どうだろうか。岡田は平易な言葉を使いながら、心を閉ざした人の気持ちをわかりやすく伝えている。「だからお願いかかわらないで 私のことはほっといて」なんていう件は、モビルスーツに閉じこもる「Zガンダム」の女性陣たちを思い出してしまう。
また、この歌詞に寄せた井上の音楽は、まさしく童謡の聴きやすさで耳に馴染む。
この歌がかもめ児童合唱団の愛らしい声で毎回番組の冒頭を飾るのだ。
「破格だ」と僕は思わずにはいられなかった。
自らの殻に閉じこもった人の気持ちとはどんなものか、それが外に向かって、他者に向かって開かれていくには何が必要か。
そんな難しい主題を、こんなにわかりやすく示した物語は、素晴らしいの一言である。

だが、物語は明るさとともに切なさも伴っていた。
なぜなら、越前さんと「はらちゃん」は、まさしく住む世界が違うからだ。
本来、交わることのない世界の住人同士が、奇跡として出会った。
互いに心を寄せ、「ずっと傍に居たい」と願ったとしても、それはやはり叶わぬことなのだ。
「僕たちは両想いですね」と、優しく明るい笑顔で語る「はらちゃん」の向こうには、永遠に結ばれぬ存在である哀しみ、切なさが溢れている。
いつか別れがくることを受け入れながら、今いる時を幸せに生きることの大切さ。
限られた時間を過ごした後、越前さんと「はらちゃん」は別れの時を自分たちの意志で選ぶ。
僕は呟いた。
「鉄郎とメーテルみたいだ」
(続く)

※1)この番組を巡る感想をネットで拾っていくと、大半の人は「たぶん、好き嫌いが分かれると思うけど」「設定が荒唐無稽すぎてついていけない人もいるかもしれないが」でも、私は好き、という僕と同じような感想を持っているようだ。だが、この番組を支持する人は、決して多くはないが、幸いにも少なすぎるほどでもなかったようだ。「イデオン」に比べれば遥かにマシ、か・・・・(^_^;)
※2)ところで主演の長瀬智也がジャニーズ事務所所属のTOKIOの歌唱担当であり、歌手としても俳優としても知名度が高いことは語るまでもないだろう。しかし、非常に男っぽい容姿とは裏腹に、喜劇的な性格の役を好んでいる印象がある。また、彼が主演する番組自体もどこか通好みな性格のものが多いように思う。
「タイガー&ドラゴン」は落語人気を高め、視聴率も高かったそうだ。しかし、一部の視聴者には熱狂的に愛され、僕もやっぱり最終回で泣かされてしまった「歌姫」などは、視聴率も一般人気も低迷した。昭和の映画全盛期の雰囲気を醸した派手な新聞広告も出して期待感を煽り、僕も「これはおもしろそうだ」と思って見始めて、期待通りの面白さだった。それが世間的には低人気。
何でこんなにいいお話が一般受けしないんだと憤慨したものだが、第45回ギャラクシー賞第2回マイベストTV賞グランプリという評価も受けている。

他にも、僕も原作が好きだったが連載が頓挫してしまった「彼女が死んじゃった」をTV化作品の主演しているが、このお話もけっこう癖があったと思う。また、「うぬぼれ刑事」などを観ていると、この人は喜劇役者になりたかったのかなとさえ思えるくらい、大袈裟な笑いを取る芝居が生き生きしている。本作でも、彼が演じた「はらちゃん」の無垢さの表現(話し方、表情、仕種)は観る者を引き付ける力があり、改めて俳優としても一流だろうと感ずる次第だ。



ジャニーズ事務所が今後、長瀬にどのような俳優としての仕事を計画しているのかは知る術もないが、僕としては時代劇の主役もしてほしいなあと思う。「無限の住人」なんかどうだ。3部作くらいにして、原作とは別物語にしてしまって。
みてえなあ。
因みに、彼は「歌姫」で斉藤由貴とも共演している。80年代の2大人気女優と共演しているなんて、実に羨ましい。と、オヤジ世代は思う次第だ。
※3)麻生久美子と言えば、オダギリジョーと共演した「時効警察」が楽しい一品だった。この人も喜劇的な役どころが上手い。美人なのだが、色香がほどほどのためか、ほのぼのとした役が多いのだろうか。本作では控えめな演技が、越前さんの地味さをうまく表現していて、彼女が次第に成長していく様が微笑ましかった。


※4)この番組で活躍するまで、無名といってよい漫画家だった。僕も全然知らなかった。でも、彼の漫画があったからこそ、この世界はより素敵になったと思う。いや、それどころか、この作品の魅力の何割かは、ビブオの画によって支えられたと思う。それくらい、彼の画には大きな存在感があった。
彼は表情が上手い。簡明な線を描きながら、個々の人物の描き分けがしっかりできている。これができている漫画家は実は多くないと僕は思っている。記号的な描き分けしかできていない漫画は少なくない。実在の俳優を参考にできたからということもあるが、簡明ながら存在感がある絵だ。
こんな絵が描ける人が、どうして今まで無名なのかと、思ったものだ。番組の最後に流れる副主題歌では彼の画が全面的に採用されているが、彼の描く越前さんの後ろ姿の人肌感、温もりは、至極魅力的で、幸せな空気を感じたものだった。
最近になって彼の唯一の単行本である「シャンハイチャーリー」の重版が店頭に並んだ。2010年初版であり、今回のTV人気でようやく第2版である。3年間重版が出なかったことが彼の以前の人気を物語る。内容的にはわかりやすいが不条理劇に近い。物語は完結しておらず、どうも打ち切られた臭い。
月刊IKKIのHPより


僕としては、よくも3年間、本人も編集者もがまんしたものと思う。「石の上にも3年」なんて言葉があるが、まさにその通りだろう。本人も無名の時期を耐えて研鑽していたようだし、この時期に彼をTV局に推した編集者を慧眼と讃えてもよいのだろうか。
当然と言えば当然だが、現在のビブオの描写力は「シャンハイチャーリー」の頃より格段に進歩している。今こそ、彼の真価が問われるのであり、ここで一発ものにするかどうかだ。不条理劇よりも、もっと普通の人間芝居を見せる分野で勝負した方がいいのではないか。編集者の腕の見せ所である。
※5)角川映画「野生の証明」で初登場した。そして、「セーラー服と機関銃」で人気女優としての地位を不動のものとした。角川映画の最終兵器といってもよい存在だった。その透明な声質と、少年的な語りは、今の年齢になっても健在で、彼女の醸し出す涼やかな雰囲気は他に代えがたいものがある。玉置浩二との結婚は「認めたくないものだな」というシャアの台詞を引用するしかあるまい。


※6)ほんの数年前なら、この時間帯で平均視聴率10%は落第だっただろう。だが、TVという媒体そのものが低迷してしまった今の状況なら合格点なのだろうか。この番組を契機に収録現場となった街への来訪者が急激に増えたそうで、それなりの影響力はあったらしい。
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