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コスモスに君と その1


この歌は、日本のTVアニメが生んだ最も美しい歌である。
何の迷いもなく、そう言いきれる。
井荻麟の作詞、すぎやまこういちの作編曲、そして戸田恵子の歌唱。全てに高いレベルの出会いが奇跡的な歌を作り上げた。1980年という時代に残っていた自由さが、この曲の誕生を後押しした。
通常、アニメサントラの構成は、主題歌(オープニング)で始まり副主題歌(エンディング)で終わる。昔も、恐らく今も変わらないであろう、当たり前すぎるようなことなのだが、「イデオンⅠ」ではその常識が覆されていた。アルバムが副主題歌である「コスモスに君と」で開始されているのである。
誰がこのような構成を決定したのか、伝えてくれる情報はない。しかし、この構成には明らかに「実はこの曲がイデオンの本当のテーマ曲なんですよ」という制作者の意図が反映されている。深読みすれば、「エンディング(終末)から始まる物語」というメッセージと取れなくもない。
この曲は僕にとって特別なので、かなりの枚数を割かせていただきたい。

【井荻麟の作詞】
作詞の井荻麟が、監督である富野喜幸(1980年当時)のペンネームであることは、周知のことと思う。
井荻麟の活動がスタートしたのは「無敵超人ザンボット3」から。製作条件は劣悪であったが、富野が自由な作品づくりを名古屋テレビとクローバーに任された第一号作だ。いずれ触れたいと思うが、そのエンディングである「宇宙の星よ 永遠に」はおっさん年齢になっても、未だに口ずさんでしまうことがある佳曲である。
プロの作詞家に依頼せず、制作者が自ら主題歌の作詞を行うことは僕の知る範囲でも珍しくない。特に80年代まではよくみかけられた現象だ。石森章太郎は自分が原作した番組の多くの主題歌を作詞した。もっとも、彼の場合はネームバリューが十分にあり、別のペンネームを用意する必要もなかったが。
円谷一(特撮の神様円谷英二の長男。親分肌のディレクターであったそうだが、特撮ブームの只中で夭逝した)も東京一のペンネームで円谷作品の主題歌を作詞していた。
余談だが、こうした製作者が行う作詞活動にはどういう事情があるのだろうか?
① 経費が浮く。それなりのヒットメーカーに依頼すれば、依頼料も高いし、レコードの印税も高めに設定しなければならなくなるから。
② 製作者自身に印税が入る。つまり、製作者の収入の一部となるから。
③ 作詞が好きだから、手弁当(ボランティア)でやってしまった。
以上のような事情が想定されるだろう。富野の場合、著作権にこだわる方でもあることから、②ではないかと思う。③のようなケースがあるのかと問われれば、「超時空要塞マクロス(第一作目)」の挿入歌の作詞が、製作スタッフによっており、たぶん印税などお構いなしのアマチュア的勢いで作られたのではないかと思う。
中学生の僕は、「ザンボット3」「ダイターン3」「ガンダム」と続いて、作詞に井荻麟の名が毎回登場するので、どんな人物だろうかと思っていた。もちろん、ようやく「ガンダム」のブームに火がつき始めたばかりの頃だし、アニメ雑誌も「アニメ主題歌の作詞家に注目!!」などということはありえなかった。誰も大して興味がなかったのだろう。
ある時期まで、対外的には井荻麟は富野とは別人という「設定」になっていた。雑誌アニメージュは「イデオン」の放送に連動して、富野による「イデオン・ライナーノート」という、製作現場の内輪話を連載していた。単行本にもなったが、残念ながら絶版である。ただし、この内輪話は一部フィクションも交えられており(この本の中で富野に双子が誕生したというくだりがあるが、フィクションだそうである)、井荻麟は富野とは別人として登場している。
井荻麟=富野喜幸と公表されたのは、映画「哀・戦士」の頃である。何らかの宣伝用記者会見の折に「今まで井荻麟であることは隠してきたが、井上大輔の曲に巡りあって、隠す必要もなくなった」というような主旨のコメントを出していたと思う。うろ覚えなので、正確ではないが。
アニメ雑誌を読んだ記憶を辿れば、アニメ雑誌の記者には既によく知られていた事実のようであり、「ばらしていいんですか?」みたいな質問があったようだ。
少し意地悪を言えば、井上大輔の音楽でよくて、何で渡辺岳夫やすぎやまこういちの音楽ではダメなのかと突っ込みたくなる。
恐らく、同じ日大の同窓生で、親近感をもてた井上が富野の詩に一級の曲を作ってくれ、また、完成した歌が一級の仕上がりになっていたのを感じて、「俺は作詞でも食っていける才能がある」と自信を持ったからではないかと思う。
それまではどんなにいい歌に仕上がっていても、「でも、テレビマンガの歌だから・・・」という劣等感が拭えなかったのだろう。それが、「哀・戦士」によってヒット・チャートを相手にできる歌の作詞ができたということが、相当な自信になったのではないだろうか。本人に聞いたわけでもなんでもない、僕の勝手な憶測だが。
とはいえ、「哀・戦士」もよくよく聴けば、やはりアニメソングなのだが。

話を戻そう。
「コスモスに君と」の歌詞は、ネット検索をすれば容易に探し出せる。本来は著作権者である井荻麟の許可がいる行為であるから、ここでは全てを記すことはしない。
この歌詞全体に滲んでいるのは、死の影である。物語が実は死を目指していることを示唆している。すぎやまの曲と戸田の歌があまりに美しく、澄んでいるので包み隠されているが、歌われているのは追い詰められ、精神の瀬戸際に立たされた者への慰めにほかならない。そして、慰めさえも「傷をなめあう道化しばい」と切り捨ててしまう。こうなると、逃げ場がない。逃げ場は死しかない、そんな絶望に満ちた歌なのである。
学生運動の片鱗に触れた(それとも、どっぷり浸った?)世代の富野であるが、若き日の追い詰められた学生運動の心情でもほとばしってしまったのだろうか。
1941年11月生まれの富野喜幸は、1980年の「伝説巨神イデオン」放送時、38歳である。「ガンダム」が一部アニメ雑誌で高い評価を受け、毎月のようにインタビューが行われ、「ガンダム」の人気自体も急激に上昇していた時期である。ようやく、下積みが終わり、人生の稔りの時期を迎えた頃だ。こういう時期の精神というのは、普通、前向きな世界を目指すものだ。
その時期に、この歌詞である。尋常ではない。
当時、富野は「ガンダム」という「わかりあえるかもしれない」という物語を作り上げた。だが、「イデオン」は畢竟、「わかり会えるはずがない」という物語であった。もっと伝法に言えば、「(人類の)馬鹿は死ななきゃ治らない」という物語である。
イスラエルもパレスチナもアメリカもアラブも北朝鮮も中国もロシアもチェチェンもミャンマーもダルフールも、そしてこの日本の諸々も、一切、「(人類の)馬鹿は死ななきゃ治らない」と叫ぶしかない状況を先取りしたようなものだ。
人間社会が本当にそうなのかは別にして、「コスモスに君と」は救われるには死を越えるしかない世界を歌ってしまったのだ。
とある記事で、「この曲はその美しさから、よく結婚式でも使用されるが、歌の内容を知ったら仰天するかもしれない」云々の内容を読んだことがある。幸か不孝か、僕は結婚式でこの曲がかかるのを耳にしたことはない。もし、知り合いが使用したいと言ったら、たぶん、やめとけと助言するだろう。
この歌詞が大好きですか?と問われたら、僕はなんと答えるだろうか。20年前、あるいは10年前なら、大好き、と答えただろう。しかし、今、夫となり父となった自分ならば「嫌いじゃないけど、悲しすぎるよね」と答えるだろう。
40歳を越えた今、僕には死が他人事ではなくなってきた。また、世間や世界が、正義や健全さからは程遠い理屈で回っていることを切実に感じられるようになってきた。その僕が、今、正面からこの曲の意味を考えることは、正直言って、辛い。
あるいは当時38歳の富野も、世間と世界に正義などなく、「温かなぬくもりの中で目覚め」るなどとは、限られた世界の人間が独占する特権なのだと感じてしまったのだろうか。
44歳の僕は、今、多少、世間・世界について悲観的である。だが、先を行く富野は60歳を越えて、また「生きる」というテーマを掲げている。できれば、これからは「力いっぱい生きて、満ち足りて死のうよ」という前向きな歌を作詞していただきたいなあと思う。
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コメント

[C47] ありがとうございます

韓国で住んでいます。
いつかこの曲を聞いた時本当に好きになりました。
偶然に今日この曲を書き写する時あなたのブログを見ました。
大切な話ありがとうございます。

[C48] 管理人です

韓国から、温かい言葉をいただき、ありがとうございます。
7年前に書いた文章ですが、自分自身が励まされる内容ですね〜(T ^ T)
あれから井荻さんも、「Gの閃光」みたいな、とても前向きな歌を届けてくれました。
人生、色々なことがありますが、歌はいつも側にいて、私たちを見守ってくれます。
歌が、韓国のあなたにも生きる力をもたらしてくれますように。

[C49] こんにちは

どうして井上大輔(=忠夫)だったら良かったのかは謎ですが(ブルコメ・ファンだったとか?w)、劇場版第1作では谷村新司が主題歌の作詞をしてたので、劇場版第2作で「同じ土俵に立てた」と感じたのかも(憶測ですが)。

ヒットチャートを狙うことについてはダンバイン~エルガイムの頃にハッキリ口に出して言ってたらしく(CD『サンライズ ロボットアニメ大鑑』のブックレットより)、「風のノー・リプライ」は実際にチャート入りしましたよね(ただし本人の作詞ではない)。現在のアニメソングは主題歌なんだかJポップなんだか区別が付きませんが、その是非は別として、この人のそういう”ビジョン”があった結果だと思います。

そのルーツが「コスモスに君と」にあるというのはあながちハズレではないでしょう。ご存知かもしれませんが、戸田恵子は一応アイドル歌手としてデビューしてたけど売れなくて、初代ガンダムに声優として出た際に人気が出て(マチルダさんですね)、さらに挿入歌「きらめきのララァ」を歌うことになったという流れがイデオンの前にありました。

最後に、僭越ながら「宇宙の星よ永遠に」について異論をw。あれは佳曲などではなく、アニメ史上屈指の名曲です。
  • 2016-05-07 01:49
  • JoJo
  • URL
  • 編集

[C50] 管理人です

コメントありがとうございました。
ヒットチャートに関する考察は大変に参考になりました。
そして、僕の中でも「宇宙の星よ永遠に」は「アニメ史上屈指の名曲です」。そうおっしゃってくださる方がおられることは、とてもうれしいです。

[C70] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

[C73] 管理人です

非公開形式でのコメントをいただきました。
とても温かいコメントをいただき、ありがとうございます。
早いもので、この記事を書いてからも6年半が過ぎました。
色々なことがありました。私の中でも、その時とはまた別の感想をこの歌に持っているかもしれません。
今も、「この音楽は、歌は、私にとってなんだったのだろう」と自問自答を繰り返しながら、記事を書いています。
もう私も50歳になりましたし、できれば60歳になるくらいまでには、70~80年代のアニメ音楽について、触れられるだけ触れておきたいですね。
でも、今のペースではどうなりますやら。

私自身が一番、好きなアニメソングはと聞かれれば、今(平成28年7月)、取り上げている「海のトリトン」なんです。
でも、「コスモスに君と」は、生死のはざまに漂う人という存在の切なさを伝えてくれる、稀有の歌として、特別な輝きを放っています。
「イデオン」の音楽もまた、取り上げたいです。

コメントいただき、ありがとうございました。

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