Entries

スターチャイルドと「2001年宇宙の旅」

img014_convert_20101106214203.jpg

スターチャイルドについて、あと少しばかり。
もともと「スターチャイルド」とは、1968年公開のSF映画「2001年宇宙の旅(原題2001: A space odyssey)」という映画の最終場面に登場する、進化した新たな人類のことだ。
この映画は現在に至るも不朽の名作とされていて、1980年代のアニメ・SFファンなら、この映画の存在は、「最低限、名前くらいは知っているべき一般教養」に相当していたと思う。少なくとも雑誌「OUT」や「アニメック」に目を通すような嗜好のファンはそうだった。
1977年公開の劇場版「宇宙戦艦ヤマト」をきっかけにアニメブームが始まり、劇場版「機動戦士ガンダム」三部作である種の頂点を極めたように、スターチャイルドレーベルが発足した時のアニメブームの中心は「SF的」分野の作品だった。アニメとSFの当時の微妙な関係についてはまた触れることにして、キングレコードのアニメ部門は、富野監督作品によって急速に勢いをまし、その後も「J9シリーズ」、「六神合体ゴッドマーズ」「宇宙戦士バルディオス」などの「SF的」ロボット作品を中心に、商品の品ぞろえを充実させていた。つまり、「SF性」を前面に押し出していたとも言える。そして、「SF性」を最も象徴するものとして、当時においてSF映画の最高峰とされていた「2001年宇宙の旅」に登場するスターチャイルドを選んだのだろうと思う。
「2001年宇宙の旅」は、1980年代までは、少しSFを読み始めたら必ず出会う作品だった。また1978年に再上映されており、僕もこの時に劇場で観ている。だから、僕の心にもスターチャイルド=SFの象徴として印象付けられていたし、キングレコードのSF志向も感じていたから、スターチャイルドというレーベル名には何の違和感もなく、非常に納得したように記憶している。
たぶん、恐らく万人受けを是としていた日本コロンビアであれば、このようなファン層を制限しかねないレーベル名は選択しなかっただろう。そういうところにも、当時のキング(藤田純二氏)の嗜好がよく出ている。

ここで、STARCHIRD HNDBOOKの巻頭言である「“スターチャイルド”ヨチヨチある記」をそのまま引用することとする。文章は藤田純二氏だ。

“星の子”マークがみなさんの前に登場して早くも二年の月日がたちました。“スターチャイルド”という名前の由来については、御承知の方も多いと思いますが、ここに改めて説明いたしますと、その昔「2001年宇宙の旅」と題するSF映画の大傑作がありました。この映画では、人類が猿からヒト、そして新人類へと何物かの力(神?)によって導かれてゆく過程が描かれていました。そして、この新人類は、赤ん坊の形でしか出てこないのですが、この赤ん坊こそ“スターチャイルド”と命名されていたのでした。

「ガンダム」が登場するまで、アニメレコード界では、一社独占の状態が永く続いていました。どのような世界でも、急速に成長する時期があります。このような時期には、必然的に少数の切磋琢磨があらわれてくるものです。アニメレコード界におけるここ数年の現象こそ、まさにその状態にあることを示しています。
今、急成長をとげつつあるアニメレコード界を象徴するレーベルとして、“スターチャイルド”が生まれたわけです。
しかし、“スターチャイルド”は決してアニメだけのレーベルではありません。それは広義に“映像作品と結びついた音楽のレコード化”されたものと考えています。「ガンダム」が世に出る前に、「ウルトラマンシリーズ」のBGMのレコード化という事実があったのです。もちろんコミック原作のイメージアルバムも“スターチャイルド”のジャンルです。
以上が“スターチャイルド”のテリトリーですが、制作の根本に流れる理念について考えてみると、それは“企画の第一歩は、少数(たった一人でも)意見から”ということです。多数の人に要求されるものが、企画ベースで考えれば価値のあるものでしょう。しかし私達は、たとえ少数の人でも、本当に良いと評価してもらえれば、多数に認められる可能性が充分あるという確信を持っているからなのです。
私たちのかけがえのない財産は、そのような貴重な意見を寄せてくれる外部スタッフの方々であり、“スターチャイルド”を見守ってくださっているファン一人一人の方々なのです。

以上が全文。後半は、はしょろうかとも思ったが、他に再録される機会もまずないだろうし、“企画の第一歩は、少数(たった一人でも)意見から”など、共感することも多いので、全文を再録した。なお、この時点で既に「その昔「2001年宇宙の旅」と題するSF映画の大傑作がありました」という表現をされているのが、この映画の歴史性を示している。

スターチャイルドに先立ってキングレコードが手掛けた音源に、イデオン=すぎやまこういちの「チルドレン」、劇場版「ガンダム」第一作の主題歌「砂の十字架」のB面に収録された「スターチルドレン」などがあるため、キングレコードとチャイルド-チルドレンという概念との結びつきがもともと強く感じられていたものだった。

img012_convert_20101106213214.jpg
↑リバイバル上映時に購入。

ここでスターチャイルドの元ネタである「2001年宇宙の旅」について触れておこう。
この映画の存在を知っていることは「一般教養」だなどと書いたが、冷静に考えればSF映画をツーカーで話せる集団の人口など、実際はたかがしれていると僕は思う。なにしろ、僕の妻はこの秋放送のTVアニメ「海月姫」の主題歌映像で流れた「007」のパロディさえ、わからないほどだ。同世代の彼女が知らないということは、SFファンや映画ファンが思うほど、SF/映画の知識は「一般教養」化などしていないと考えた方がいいと僕は思っている。
この映画はSF作家アーサー・C・クラークと映画監督スタンリー・キューブリックが意気投合して制作したもの。クラークは原作とされているが、既に彼が執筆した作品にキューブリックが興味を示したのではなく、この映画のために新たに書き下ろした作品だ。
アーサー・C・クラーク(1917年-2008年)は数々の代表作を執筆したSF創世記の重要作家の一人だ。異星人と人類の初めての接触(ファースト・コンタクト)物にこの「2001年宇宙の旅」や「幼年期の終わり」などがある。後者は2007年に光文社から新訳も出ている。
彼の晩期の作品に「楽園の泉」というものがあり、僕は途中で挫折しちまって読み終わっていないのだが、少なくとも軌道エレベーターという発案を提示したことは知っている。軌道エレベーターの発想は、最近でも「00ガンダム」や、またNHKドラマ「10年先も君に恋して」でも取り上げられている。後者では登場人物に「クラークの楽園の泉は軌道エレベーターに関わる者にとってはバイブル(聖書)なんだよ」と言わせており、びっくりした。
スタンリー・キューブリック(1928年-1999年)はこの映画の他、「スパルタカス」「博士の異常な愛情」「ロリータ」「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」「フルメタル・ジャケット」などの多数の代表作を持つ、映画界の鬼才だ。
この二人が組んだ「2001年宇宙の旅」は、2010年の現在に到るも、やはり、なおも傑作としての地位を守っている。

さて、最近、この映画のHDリマスター版がBShで放送されたので、それを何気なくみて驚嘆した。
「なんでこんなに鮮明なんだ!?」
1968年である。
今から42年前の映画である。
何しろディズニーが「トロン(昔の)」で拙いCGを披露するよりも、もっと以前の特撮技術なんである。
それが、今日の視点からみても、「最新作です♪」と言ってもそんなに差し支えない水準を保っていた。
42年前ですよ、あーた。マスターフィルムの保存状態がよほどよいのだろう。残念ながら、同時期の邦画をリマスターしても、ここまで鮮明にはならないかもしれない。邦画を保存する環境は決してよくないと聞く。
しかし、それにしても恐れ入った。HDリマスターとハイビジョンの威力を思い知らされた。
ブルーレイも発売されており、お勧めの逸品である。



有名な映画だが、あえて解説を。
本編はおおまかに4章にわかれる。①人類の夜明け-モノリスと類人猿が接触し、類人猿が道具を使う「進化」を示すまで、②フロイド博士が連絡船で月基地までいき、そこで月面のモノリスと対峙するまで、③木星へ向かうディスカバリー号内でのコンピューターHALの叛乱と鎮圧まで、④一人残ったボウマン船長が木星でモノリスと接触し、スターチャイルドに進化するまで。
この全編にわたって、HDリマスター映像はうっとりするほどの美しさを示した。元の映像の質が、42年前の製作でありながら、現代にも通用するだけの完成度を誇っているのだ。人類の創世記の場面では、今回のリマスターで、背景が絵画であることがわかるくらい質感がよくわかる。類人猿はたぶん人が特殊メイクで扮していると思われるのだが、メイクも演技も質が非常に高く、違和感が全然ない。
②では宇宙船が月基地へ移動していく場面がゆったりと映し出されていくのだが、その宇宙船の描写、船内での人の活動がやはり42年前とはとても思えないほど鮮明だ。服装の雰囲気が60年代を意識させる点もあるが、宇宙の場面は圧巻だ。60年代はまだまだ合成技術が発展途上であり、合成したことがわかるような質感の変化が現れやすいのだが、この映画ではそれが感じられない。しかも宇宙船のデザイン、細部の作りこみが今の視点からみても古さを感じないどころか、美しく、楽しい。
③のディスカバリー号の場面は、改めてこの宇宙船の造形の素晴らしさに圧倒された。精子をモチーフとしたこの船体は、最先端部に船外活動用の小型宇宙船(スペース・ポッド)が収納されており、このポッドの描写もぞくぞくするほど(おじさんには)素晴らしい。この章では宇宙船内ということもあり、60年代当時の服装、風俗が反映されていないため、余計に古さを感じさせない。宇宙服の色彩がHDリマスターでより鮮明になり、新鮮さを強めている。ディスカバリー号やポッドの白の色彩描写も見事だ。監督の色彩感覚の成せる技だろう。
④の章では物語はなくなってしまう。ただただ光の洪水があふれる映像が延々と続き、そして恐らくホテルを模した異次元の空間内でボウマン船長が次第に年老いていき、最後にスターチャイルドに転生するまでが描かれている。明解な筋がなくなっているため、難解とされている。何となく、僕としては、これはキューブリック監督がかましたはったりのようにも思える。今となっては。
人間が新人類に転生するという現象を、いくらクラークが協力しているとはいえ、あまり明解に描いてしまうと陳腐に堕する可能性が高い。だったら一度みたくらいでは何がなんだかわからなくしてしまい、最後にどんとスターチャイルドを見せた方がいい・・・と思ったんじゃないだろーか。
あまり卑近な解釈をすると怒られそうだが、ただ僕が改めてこの章の映像をみて感じたのは、「キューブリックは映像の作り方を知りつくしていたんだな」というもの。単に光の洪水と説明したが、様々な工夫をこらしている。この映像もどうやって撮影したのかと思うと、退屈と紙一重の映像も十分に楽しめる。



最後に2001年宇宙の旅の音楽について。
この映画は3つの音楽が効果的に使用されている。
先ず、冒頭の場面他に流されたリヒャルト・シュトラウス作曲「ツァラトウストラかく語りき」。
この曲は、この映画に使用されたことによって、特別な存在になったと言える。「2001年宇宙の旅」で使用されなければ、クラシック愛好家の中で「ちょっと冒頭がゴージャスな交響詩」として認識される程度で終わっていたかもしれない。
リヒャルト・シュトラウスは20世紀前半に活躍した、恐らく史上最後のロマン派作曲家だ。ツァラトウストラかく語りき」の他、たくさんの交響「詩」を作曲したが、むしろオペラ作曲家としての評価の方が高い。旋律がとても美しい曲を作っているのだが、五味康祐なんていう偏屈作家には「派手なだけの内容の空疎な音楽家」と切って捨てられている。まあそうかもしれないが、大きなお世話のような気もする。現実家のシュトラウスだから、そんな悪口を言われても「音楽は飯のたねですからな、ハッハッハ」と笑い飛ばしそうな気もするし。
「2001年宇宙の旅」で使用された、オルガンの重低音を伴う冒頭だけが突出して有名になってしまったが、それから後の曲も、甘すぎるほどに美しい音の響きを充分に堪能できる。もっとも、僕が高校生の時に初めて聞いた時は、美しいけどきれめのない旋律が延々と続いて、やっぱり何がなんだかわからない音楽に感じてしまったものだが。
映画で使用されたのは帝王ヘルベルト・フォン・カラヤンが1959年にウィーンフィルと録音したDECCAレーベルの音源。第二次世界大戦中に敵の潜水艦の音を録音するために開発された技術を、戦後の商業録音に流用したffrr録音を売り文句にしていた。僕がこのカラヤンのLPを買ったのは80年頃だから、既に廉価版扱いとなっていたが、それでもジャケットには優秀録音「ffrr」のロゴが記されていたのを覚えている。

2曲目はヨハン・シュトラウス作曲の「美しき青きドナウ」。因みにリヒャルト・シュトラウスとは全く血縁関係はない。たまたまのシュトラウスコンビ。
この曲は「2001年宇宙の旅」に使用されなくても、恐らく今後も永遠の名曲として奏されていくと思うのだが、そうであっても、キューブリックの起用には目覚ましいものがあった。ホルンの木霊するような調べで始まるこの曲にのって、ほとんど台詞もなく、ゆったりと宇宙船が移動していく場面が流れていく。今のハリウッドなら、「こんなかったるい演出しとったらいかんぜよ、監督の首を切れ!!!」と製作者ががなりたてそうなくらい、のどやかに映像が続いていくのだが、ちっとも退屈ではない。美しい風景をみている時、人はわずかな変化をみるだけで十分に満足できるものだ。映画のこの場面は、「美しき青きドナウ」の音楽と合わせて、まるで癒しのような効果を与えてくれる。逆に言えば、このドナウが途切れてからは癒しのない緊張を求めるようになる。
劇の終末でスターチャイルドが誕生すると、場面は暗転し、再び「美しき青きドナウ」が流れ始める。緊張がほぐれ、物語から解放される。実に卓越した音楽演出だ。

3曲目は現代作曲家、といっても2006年に物故されているが、リゲティ・ジェルジュ・シャーンドルの曲で、人の呻き声を素材としている様な不気味な音楽だ。劇中でも緊張感を盛り上げたい場面で効果的に使用されている。キューブリックはこの作曲家がお気に入りのようで、「シャイニング」でも起用していた。

今回はアニメから遠く離れてしまった。次回はまたアニメ主題歌に戻ります。


↑これはSACDです。音はいいけど、高いので・・・・。輸入盤のCDなら1000円ちょっとで買えます。↓HMVで購入可能。
509.jpg
スポンサーサイト
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://kosumosunikimito.blog9.fc2.com/tb.php/21-94b33e49

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

コスモスに君と

Author:コスモスに君と
FC2ブログへようこそ!

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QRコード