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トランペットは70年代の響き 山本直純「愛する大地」


前回、作曲家としての山本直純は過小評価されているかもしれないと記した。一世をある程度にしろ風靡した彼だが、少しずつ忘れ去られつつあるのは事実だろう。
だが、音楽とは強かなもので、それとなく僕らの記憶にこびりつき、根をはって、ふとしたことで「ああ、そう言えば」と思い当たったりする。
山田洋二監督の、というよりは渥美清主演の「フーテンの寅さん」(※1)連作映画の主題曲は、まるで秋の晴れ渡った空を見上げるような晴れやかな響きで始まる。後は次第に普通の演歌のように淡々と流れていくのだが、その素朴な響きは意外とくせになる。
それが山本の筆によると聞けば、これは只者ならぬと、今の僕なら思う。あの導入の旋律を生みだしただけでも凄いことだと思う。
あの音は、日本人の音だと思う。日本人にこそ、親しみを持てる音階を使っているように思えるのだ。どこかしら祭り囃子を連想させる響きの片鱗を感じるのだ。
残念ながら、そうしたところまで分析してくれた文章を探し出すことはできなかった。国民的な映画(※2)なので、誰かが考察しているとは思うのだが。
この主題歌の成立の経緯を記したHPがあるので、紹介しておく。
連載「男はつらいよ」

特撮の世界で、山本は「マグマ大使」と「怪奇大作戦」の音楽を担当している。
前者は「ウルトラマン」よりわずかに早く放送開始され、国産カラー番組第一号の栄誉を担っている。1話完結式、一貫した敵組織のなかった「ウルトラマン」とは異なり、4本で1話完結(後半は2本で完結)の連続物語の体裁を取り、また敵も悪の生命体ゴアという首領をいただいていた。金城哲夫とはまた異なる世界観を提示し、初期国産特撮番組の礎を築いた作品だった。

主題歌はマグマ大使を呼ぶ笛の響きとともに始まる。作詞:長谷川竜生、作曲:山本直純、歌唱:村田弘信とハーモナイズの布陣。
マグマ大使の歌詞
ブラスの輝かしい主旋律、更にその背景にもブラスが小刻みに音を奏して、「アースが産んだ 正義のマ・グ・マ」と歌われる。
耳のよい人は、この主題歌とゼロテスターの主旋律、コード進行が同一であると指摘している。言われてみれば、その通りだ。この年になって初めて気がついた(※3)。
男性合唱で力強く歌われるこの主題歌は、高らかな「マグマ讃歌」であり、マグマ大使の存在を際立たせるに十分だった。
「マグマ大使」は、山本によるこの主題歌、神の申し子であり、歌舞伎の獅子を思わせるマグマ大使の風貌、善悪を超越したような敵ゴアの存在など、印象の深い番組だった。
「マグマ大使」はビープロ製作。ビープロとは、うしおそうじという漫画家が立ち上げた特撮番組製作会社だ。他にも「スペクトルマン」「怪傑ライオン丸」また最近、再製作された「電人ザボーガー」などを残している。昭和40年代、円谷プロや東映とともに、特撮番組製作の中心的存在だった(※4)。「マグマ大使」「スペクトルマン」「怪傑ライオン丸」の3作品は、日本の特撮史上、避けては通れない歴史的作品といってよいだろう。円谷プロとはいい意味で刺激し合っていたと思う。



さて、そんな貴重な国産カラー番組第一号で華々しい主題歌を披露した山本は、数年後に、今度はえらく地味な、陰鬱な音楽を円谷プロに提供している。「怪奇大作戦」である。
僕は再放送でしかみていないのだが、初めてこの番組をみた時、そのおどろおどろしい主題曲にドン引きしまったことを覚えている。番組の製作者(プロデューサー)が社会運動にかぶれたのか、「人間の奥底にある感情や社会の不合理を描きたい」と主張して、「ウルトラマン」「ウルトラセブン」で異なる存在の調和を目指した金城哲夫に不釣り合いな脚本を書かせ、陰惨な物語を毎週お茶の間に届けた番組だった(※5)。
歌のない主題曲は非常に独創的だった。口琴という特殊な楽器を使ったそうだが、耳触りと紙一重の禍々しい響きだった。
気がめいるような展開の番組の最後に流れる主題歌は「恐怖の町」。題名だけで「もう勘弁してください」と呟きたくなる。作詞:金城哲夫、作曲:山本直純、歌:サニー・トーンズ(ザ・ブレッスン・フォー)の布陣。
恐怖の町の歌詞
途中で転調して明るい曲調に変るのだが、それでも前半の印象を引きずって、どこかしら、僕の感覚から言えば血なまぐささを感じてしまうのだ。忘れようにも忘れられないという点で、山本の仕事は大成功であると思う。



しかし、だ。山本直純の奥の深さは次の作品で思い知らされる。
「新オバケのQ太郎」の主題歌である。この作品は長らく封印状態であり、近年になってようやく全集として再販されている。詳しくはウィキペディアの記述を読んでいただくのがいいだろう。
オバケのQ太郎に関する記載
僕自身はこの「新オバケのQ太郎」をほぼ同時代で視聴している。これがまた、今になっても斬新な生き生きした曲で、「恐怖の町」の同じ作曲家の作品とは思えないほどだ。
生きのよいカーニバル音楽のような派手な出だしとともに、「あのねQ太郎はね~ 頭に毛が3本しかないんだよ♪」「キュッキュ キュッキュッキュ Q太郎はね~ オバケなんだ オバケなんだ オバケなんだけれど」「ともだちなんだ やさしいやつさ いつもおなかをすかせているんだよ」「だけど犬にはとっても弱いだってさ!」
このテンポが実によい。実に生き生きした曲だ。最後の「おなかをすかせているんだよ」「だけど犬にはとっても弱いだってさ!」の旋律のつながりは、子供の頃は何とも思わずになじんでいたけれど、今、こうして聴いてみると、「お見事!」と手を叩きたくなるような絶妙の間を感じさせる。作詞:東京ムービー企画部、作曲:山本直純、歌唱:堀絢子&ニューロイヤルの布陣。
Q太郎の歌詞

さて、ここまで延々と山本直純の歌の軌跡を追いかけてきたが、僕の一押しの名曲が、彼の筆から生まれ出ている。
「セロテスター」の副主題歌、「愛する大地」だ。
作詞:高橋良輔(!!)(※6)、作曲:山本直純、歌唱:ロイヤル・ナイツの布陣。

愛する大地 愛する地球よ
誰にも渡さぬ 我らの故郷(ふるさと)
平和を求めて飛び立つ朝は 希望に輝く陽が昇る


この歌は、静かなギター伴奏(※8)から始まり、少しの間をおいて、ロイヤル・ナイツの合唱が加わる。彼らの澄んだ声質、美しい和声が耳にとても優しく馴染む。
高橋の詞は改めてみてみると、何の奇のてらいもない、ある種、ありふれた、平易な言葉の連続である。だが、そうでありながら、言葉の組み合わせの妙か、覚えやすく、そして想像力を喚起する仕上がりになっている。僕の好きな言い方をすれば、「言霊を感じる歌詞」なのだ。
この歌詞をロイヤル・ナイツのくせのない声の響きで聴かされると、非常に気持ちが癒されるように思えるのだ。
TVの映像では夜空から朝日が昇り、照らし出される砂丘の上には足跡が見え、それを追うと朝焼けを見つめるゼロテスターチームがたたずんでいるというものだった。
山本の音楽は人の声を際立たせるため、伴奏は最小限にとどめている。だが、その最小限の伴奏が、この上なくも美しい。
1番の歌が終わると、トランペットが高らかに朝の歌を奏でる。このトランペットの響きに僕は魅せられている。
70年代もまた、激動の時代ではあった。だが、まだ一部には安らぎが残されていたかもしれない。まだ、「苦闘を乗り越えれば、安らぎの時が訪れる」という気持ちがあった時代だった。90年代以降はそうはいかなくなった。「苦闘、苦闘、また苦闘」の連続の時代にはいってしまった。
僕が山本の筆になるこのトランペットの響きに託すのは、まだ平和を信じることができた時代への郷愁なのかもしれない。
このトランペットを聴いていると、なぜか僕はアーノルド・パーマーを思い出す。最近、リバイバルブームがきているそうだが、日本のレナウンが立ち上げた日本独自のブランドで、70年代には海辺の夕焼けの情景などを広告に起用していたように記憶している。その静かな、安らぎを思わせる広告写真と、このトランペットの響きが、僕の脳裏では強く結びついていた。
この項を書くにあたって、そういえばサイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋;Bridge over Troubled Water」にも同じような印象を抱いていたことに気付いた。
2番からは合唱の伴奏にトランペットやドラムも加わり、歌の生気が強くなっていく。あたかも陽が昇るとともに世界が広く照らし出されるかのように。

僕はこの「愛する大地」は、歌詞、作曲、歌唱の全てが粒のそろった名曲だと思う。暴論と言われるかもしれないが、山本直純にとっては最高傑作の一つではないかと思えるし、この歌の価値に気付かないような山本直純の研究なんて意味がないとすら言いたい。
残念ながら、人気作品だったというのに「ゼロテスター」の歴史的評価は高いとは言えず、むしろ忘れ去られていく一方のようだ。それにつれてこの歌も忘れられていくのは、とても寂しいと思う。中には「やっぱり、この歌が好き!!」という方もおられ、ブログをみつけたので掲げておく。
アニメの森

山本直純はあと2曲、「ゼロテスター」に歌を寄せている。
題名を変更して「ゼロテスター地球を守れ!」になった際の新主題歌(番組名と同じ)。作詞:杉山政美、作曲:山本直純、歌唱:杉並児童合唱団の布陣。
これは児童合唱団による歌だが、より童謡的な仕上がりになっている。

ゼロゼロゼロのコールサイン どこかで誰かが呼んでいる
緊急事態の発生だ マッハで飛び出せ一号機
急げ ぼくらのゼロテスター
地球を守れ ゼロテスター
力の限り戦えば 地球に平和がやってくる


歌詞の雰囲気が初代の主題歌とは大幅に変り、より幼い視聴者に分かりやすいように工夫されているようだ。「緊急事態の発生だ マッハで飛び出せ一号機」という具体的な描写、「急げ ぼくらのゼロテスター 地球を守れ ゼロテスター」という呼びかけなどがそう思わせる。視聴対象を大幅に下げたことを推測される歌詞になっている。「ウルトラマンレオ」の主題歌も同じような変化を示したことを思い出す。
とはいえ、僕としてはそんなにお気に入りでもないのだが、この歌、旋律はやけに耳に残っていた。特に「急げ ぼくらのゼロテスター 地球を守れ ゼロテスター」の部分などが残響となって耳にこびりつきやすい。
たぶん、山本直純は、旋律が子供の耳になじむように、強く意識して作曲していたからだろう。

最後にもう一つの曲、「地球要塞スーパー5」について触れておこう。どのように使用されたのかは知らず、僕も大人になってCDで初めて聴いた曲なのだが、これがまた、無視できない魅力がある歌なのだ。
作詞:杉山政美、作曲:山本直純、歌唱:ロイヤル・ナイツの布陣。
歌は無伴奏のロイヤル・ナイツの歌で始まる。

地球を守る 心は一つ
正義を愛する この勇気
たとえ危険が迫ろうと
許すな アーマノイドの悪だくみ
平和をこの手に握るまで
地球要塞スーパー5 戦えスーパー5


ゆっくりと歌われるのだが、ロイヤル・ナイツの声の美質が存分に発揮されている。そこに少しずつ絃やブラスの伴奏が加わり、色彩感が広がっていくのだ。これが1番から2番、更に3番へと進むにつれ、伴奏がどんどん活気を増し、ロイヤル・ナイツの合唱とともに最高潮に達する。僅か2分程度の子供のための歌に、山本は渾身の仕事をしたのではないかと思わせる充実した仕上がりをみせている。
残念ながら杉山の歌詞があまりに子供を意識しすぎていて、「アーマノイドの悪だくみ」の如き言葉を選択していて格調が落ちてしまうのが難点だ。特に音楽が最高潮に達する「緑の大地を炎で包む(ここまではよい) 悪人どもを追い払え(もっと他に言葉はなかったんか!!)」部分は、歴史的ダメだしを出したいほどだ。
だが、きれいな歌なんですよ、この曲は!!

山本がアニメや特撮に残した歌を見ると、そのほとんどが合唱曲であることに気付く。
そもそもTVアニメソング第一号の「鉄腕アトム」が合唱曲だった。アニメソングが童謡の流れの延長に恐らくいたであろうから、至極当然のことかもしれない(※9)。
録音のためか、あるいは番組の性格のためか、「マグマ大使」や「怪奇大作戦」の音楽、音(声も含めて)は雄々しかったり、荒々しかったりしていた。だが、「ゼロテスター」で彼が示したのは、美しさであった。そこには人の負の性質を取り除き、希望、安らぎといった情念を彼独自の語法でわかりやすく、工夫も凝らして、美しい音の仕上がりを示してみせた。この音の充実ぶりをみていると、彼が子供のために、どれだけの想いをこめたかが見えてくる。「地球要塞スーパー5」などは一歩違えば、何の個性もない挿入歌で終わってしまいかねないのに、ここでも彼は一編の物語を織りなすような構成にしている。
この分野で山本直純が果たした業績は、もっと、もっと、もっともっと、評価されるべきなのだ。歴史の片隅に忘れ去るようでは、アニメ文化もへったくれもあるまい。



※1)とはいえ、淡々と気負いのない語り口、さりげないカメラワークはやはり、山田監督の世界なのであるが。
※2)国民的、と思っているのはジジババ世代だけだ!と言いたい方もおられるだろうが、日本人の心性に合いやすい連作映画だと僕は思う。
※3)記述は短いが、このようなブログを認めた。
http://nostalgic-tastes.seesaa.net/article/188667679.html
※4)とはいえ、特撮愛好家では有名だが、うしおという社長はトンパチな性格だったそうで、出演者などへのお金の支払いが滞りがちだったそうだ。それでいて自分は自宅に大きな汽車の模型をつくって子供のように喜ぶという「空気の読めない」、まあ経営者としては失格に等しいことをしていたようだ。
※5)念のために言えば、この番組が日本特撮番組史上の金字塔であることを、僕は否定しない。怪優岸田森を際立たせた意義や、「京都買います」「呪いの壺」などの傑作の価値も認めている。だが、それを子供番組でする意義があったのかと言えば、疑問だ。暗すぎるのだ。大人が子供に、人の怨念を語り聞かせてどうするのかと、今でも思う。それは青年期になってから考えればいいことだと思うのだ。理想郷を語りたかった金城は、この番組で物語の創造力に関する基盤を崩したのではないだろうか? だが、時代がそうだったというか、太平洋戦争を体験した青年、子供たちが大人になった昭和40年代、当時の子供たちに自分たちが見てきた人の世の不条理を、伝えずには、どうにも己の気持ちが収まらなかったのかもしれない。
※6)「ボトムズ」の「炎のさだめ」といい、意外や高橋監督もいい詞を書く。富野監督といい、「自分でやっちまおうぜ」「印税もはいるしな」というノリだったのだろうか?
※7)ロイヤル・ナイツは1959年結成の男声4名による合唱団。高音を担当するトップテナー、セカンドテナーと、中低音を担当するバス、バリトン各1名から成っている。昭和30年代にはこうした合唱団がいくつもレコードデビューしていた。彼らは「サンダーバード」の日本版主題歌も担当しているし、他にも多数のアニメ、特撮番組を歌っている。
興味のある御仁は例によってウィキペディアを参照いただくとよい。
ロイヤル・ナイツの記載
初代の構成員は、4名中3名が東京藝大声楽科の卒業生であり、恐らくはこの団体の性格を決定づけていると思われる。和声を重んじているであろう発声法は非常に美しい。ただし、途中で人員の交代があったので、「愛する大地」を歌った当時の人員は結成時とは変わっているようだ。
※8)ピアノ伴奏だと思っていたのだが、よく聴くと残響の性格がギターのように思えるのだが・・・。
※9)以前にも触れたが、009の「誰がために」を引用して、アニメソングが軍歌の流れの延長にあると指摘した文章があった。全くその通りなのだが、他にも童謡からの延長がある。それが次第に歌謡曲、J-POPへと置換されていったのが、80年代以降の流れだった。


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