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頂点の「Get It!!」、復活の「Coming Hey you!」

kaito2198さんから励ましと富野監督の意見を教えていただいた。遅ればせながら、ありがとうございます。
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「ザブングルグラフィティ 主題歌 MIO KING RECORD K07S-418」
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「Get it!」と「Coming Hey you!」は、1983年に公開された「ザブングル・グラフィティ」のイメージソングという扱いになっている。
当時はCDの黎明期(※1で、まだまだLP、EPが主流だった(※2。 
「ザブングル・グラフィティ」の音楽編LPが作成されたことはなかったと思うので、この2曲を収めたレコードはと言うと、恐らくこのEP盤が唯一になるのではないだろうか。スターチャイルドのベスト盤などで収録された可能性はなきにしもあらずだが、そうしたベスト盤が出たという記憶はない。
後年、CDの時代がきて、スターチャイルドの音源も逐次、CD化された。今や懐かしいCDシングルでも幾つかの歌が再発された。
「Get it!」も再発されたが、しかし、併録されたのは「Coming Hey you!」ではなくて、「Hey you!」だったのだ。唯一の再発の機会を失った「Coming Hey you!」は以後、2011年まで世に出ることがなかったわけである。なぜだろうか。
今回はこの2曲を振り返ってみたい。

「Get it!」は他のザブングルと唯一、違う点がある。
作詞が井荻麟ではなく、売野雅勇(うりのまさお)なのだ。
売野は80年代を代表する歌謡界作詞家の一人だ。中森明菜やチェッカーズ、矢沢栄吉など、世間的に認知度の高い歌手の歌詞を多数手がけている。
彼の登場は、僕にも「サンライズとスターチャイルドが方向転換をはかっている」と思わせたものだった。
それまでのサンライズ、スターチャイルドは、一部を除けばアニメ業界の中での作品作りをしていた。それが監督自らの作詞だった。井荻(富野)がその最たるものだった。例外なのが劇場版ガンダムⅠで「砂の十字架」を手掛けた谷村新司だったが、彼を除けばサンライズ関係の歌で、いわゆる売れっ子作詞家が登場することはなかったといっていいのではないか。
そこに、売野の登場である。サンライズと言うか、スターチャイルドが大きく舵を切りかえたという印象を与えたものだった。
アニメ業界が市場を拡大する一番の方法が、一般社会で知名度の高い製作者を取りこみ、広告塔として利用することだった。その魁が西崎義展による「さらば宇宙戦艦ヤマト」における歌手、沢田研二の起用だった。これにならって、「銀河鉄道999」は主題歌にゴダイゴを起用し、大成功を収めたし、以後のアニソンの「一般歌謡曲化」への布石を引いたものだった。
その流れをスターチャイルドも取り込んだのが、売野の起用とみて間違いはないと思っている。この売野の起用は、営業成績は別として、作品的には大成功だった。僕たちアニメ愛好家をあっけにとらせるような歌をものにしてしまった。

歌詞GET Get it!

僕はこの歌詞に売野の才能、感性の凄さを感じる。
なぜなら、まるで井荻(富野)が作詞したのかと思えるくらい、見事に「Hey you!」や「忘れ草」を彷彿とされる世界観、男と女の肌感覚が再現されているからだ。
「濡れた髪を拭きなよ」
「少し抱いてやるよ」
「口うつしでお前に・・・教えてあげる」
強いて言えば、言葉の流れや組み立てが、井荻(富野)よりも素直であるかもしれない。井荻特有のいびつさ(ただし、絶妙な、と付け加えたいが)はここには感じられない。井荻の感覚を灰汁(あく)抜きして、より受け入れやすくした歌詞ではないだろうか。
売野はこの後も「エルガイム 〜Time for L・GAIM〜」「水の星へ愛をこめて」など、富野作品を手掛けるが、いずれも富野の示す世界観を巧みに反映していると、僕は感じている。

そして、この歌詞を得た馬飼野の旋律と音楽は、一言、物の見事に弾けた素晴らしいものだった。
この二人はこれ以外にも伊藤麻衣子や岩崎良美、近藤真彦などの歌謡曲でも組んでいるが、この「Get It!」での馬飼野の音楽の生命力ときたら、一度聴いたら耳から離れず、その熱気にうなされるほどだった。
導入の音楽からして、只者ではなかった。「Hey you!」の音楽に更に火薬を放り込んだかのごとき、華々しい、まるで銃を乱射する野郎どもを従えて、盗賊の頭が威勢よく登場したような勢いで始まるのだ。これだけでこの歌は見事に僕たちの心をとらえて離さない。

Get it!! 呼応するようにブラスが鳴り響く。
Get it!! もう一度、ブラスが響く
そして、
Get it!! ・・・・You can get it now!!!!!
・・・MIOの伸びやかな声が、言葉を開放して僕たちの心を歌の世界に解き放つ。
この歌は、実に「歌いやすい」。さすが、流行歌を幾つもものにしている馬飼野だ。
売れる歌は、先ず歌いやすくあらねばならないのだ。じいちゃんばあちゃんおっちゃんおばちゃん、にいちゃんねえちゃんでも何となく口ずさめるのが、流行する歌の一大条件だ。
「Get It!!」は人知れぬアニメ映画用の歌でありながら、馬飼野は惜しげもない旋律を与えてしまった。
「傷だらけの翼 少し抱いてやるよ」の件での絶妙な音の回し具合。
「命のありか 教えてあげる」での見事な場面転換、後に続くサビへの繋ぎ。
「Only run an’ run・・・run an’ run an’ run」への集約。
一大傑作でありながら、埋もれてしまった名曲だ。
だが。
何が凄いといって、この歌のMIOの歌唱の凄さを超える歌は、アニメソングに限ればそうはないだろう(※3。
あえて言う。
「Get It!!」が凄すぎたのが、MIOの不幸の始まりであった、と。
歌唱、楽器としての声の頂点を彼女はここで極めてしまった。後に続いた歌は、ことごとく、この歌を超えることができなかった。
それが、MIOの低迷の一因ではなかったか? と、僕は思う。

売野の流れのよい歌詞と、馬飼野の歌いやすい旋律、巧みな音域の転換によって、実は「Get It!!」はかなり歌いやすい、とっつきのよい歌だ。何度か耳にすれば、たいがいの人はそれなりに歌えてしまう。それは、いい歌、流行る歌の条件でもある。
だが、ただ歌いやすいだけならそれまでだ。短期間で忘れ去られる。「だんご3兄弟」がいくら歌いやすかったといって、今、歌う人はいないだろう?
歌いつがれる歌とは、歌いやすいのだが、常人では到達できない境地のお手本になる歌唱があるものだ。巧みな声の変化、表情。素人では到底、出せないお手本の歌唱がある歌は、そのお手本への憧れが芽生えて、つい歌ってしまうものなのだ。
MIOが「Get It!!」で音盤に刻んだ歌唱は、のびやかで、力強くて、そして神々しいほどに輝かしい。
実は、MIOのエンジンが全開になるのは、本編の歌が終わってから。
最後のrun an’ run an’ run。run・・・・の音を引っ張っていくのだが、声量の頂点を維持したまま、終わることなく、息の続く限り、どこまでもどこまでも声が続いていく。
初めてこの歌を聴いた時、高校生の僕の中で、MIOは最高位の歌姫となった。度肝を抜かれてしまったのだ。
すげえ、すげえよ、MIO!!!!!
端的な感想が洩れた。
この発声が終わってからが真骨頂だった。即興の叫び声、かけ声を歌にしながら、彼女の声が次第に消えていく。まるで、「私は永遠に歌い続けることができる。でも、レコードだからここまででごめんね」というかのように。
この、歌ではないが、(たぶん、ジャズでは某かの名称がついている歌い方、形式じゃないかと思うのだが)歌にならない歌、これは素人が真似をしても、様にならないどころか、ただの騒音で終わってしまう。それをきっちり“歌”に仕上げて僕たちの心に放り込み、微笑むように去っていった。そんなことができるのは、彼女が真の歌姫だったからだ。

でも、あまりにこの歌の衝撃が強すぎて、その後に続く彼女の歌は、これを超えることができなかった・・・のでは、ないだろうか? 「エルガイム」以降、彼女は迷走の時代に入ってしまったのではないだろうか・・・。

さて。
「Coming Hey you!」についても触れよう。
この度、発売されたベスト盤で初収録ということになっている。残念ながら、20年近く、市場から忘れられた(黙殺された)歌が、ようやく陽の目をみたわけである。
僕の手元に、たぶん平成2年(1990年)に発売されたCDシングル(※4がある。「Get It!!」のシングルだが、併録はなぜか「Hey you」なのだ。
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確かに、同じ雰囲気の歌ではある。だが、通常ならそれぞれ、相方があるのだから、それと組み合わせて発売するのが素直というものだ。
でも、僕は何となく納得してしまった。これでも仕方がないと得心してしまった。
なぜなら、「Coming Hey you!」は井荻(富野)独特の灰汁が強く出た歌だったからだ。

歌詞GET Coming Hey you!

歌と言うより、語りに近い。どちらかというと、語って聴かせるようなフォークソング調なのだ。
井荻(富野)は、自分が主役の時には、多少なりとも灰汁を抑える努力をするのだが、脇役となると途端に抑えていた我、灰汁を吐き出してしまう。
劇場版「ガンダムⅠ」で谷村新司が「砂の十字架」を歌ったB面(※5で、井荻(富野)はやはり「スターチルドレン」という独特のノリの歌詞をしたためた。結果はSF演歌とでもいいたくなるような、歌ができあがっていた。
「エルガイム」後期の主題歌である「風のノー・リプライ」のB面「傷ついたジェラシー」しかり、「Zガンダム」後期の主題歌である「水の星に愛をこめて」のB面「銀色ドレス」しかり、「ZZガンダム」後期の主題歌である「サイレント・ヴォイス」のB面「一千万年銀河」しかり。
どれも、どこか斜に構えたような、素直じゃない言葉が並んでいる。
A面に売れ筋の作詞家がきているんだから、B面は俺の自由にしていいよね、という安心感だったのか、それとも「俺を脇役にしやがって!!」という反骨心だったのか。
前年の劇場版「THE IDEON」の「セーリング・フライ」と「海に陽に」が恐らく作品的にも、商業的にも成功とは言えなかったのではないだろうか。その反動で、井荻(富野)の作詞が主役からおろされたその始めが「Coming Hey you!」だったのではないか。以後、彼が主役になる頻度は減っていく。脇役に回された怨念が、彼の歌詞の傾向に露わになっていたように僕には思える。

それでも、改めてベスト盤で「Coming Hey you!」を聴いた時、僕は率直に、「この歌、いいね!」と感じたのだった。
語りかけるような歌詞と、MIOの穏やかな声が、すっと僕の心の乾いた部分に染み込んだのだ。高校生の頃の僕も、この歌は嫌いじゃなかった。くせがありありとは思ったが、CDシングルで再発されなかったのは不満だった。
だが、大人になって、今、「この時代になっちまって」聴くと、そっと寄り添うように始まり、そして「ひがまずにさ」「曲がらずにさ」と、励ましてくれる。その言葉の優しさが、大好きになった。
「ひがむな」「曲がるな」ではない、この言葉の選び。
「ひがまずにさ」「曲がらずにさ」と語られる方が、意固地にならずに聞きいれてしまえる。
改めて、井荻(富野)の感覚に敬服している。
地味な曲だったろう。
スター・チャイルドも「この歌は売れない」と思ったことだろう。
だが、この歌は、今、改めて本物と思う。時間を超えて、今、この歌の本当の価値が僕にはわかることができた。
再発を心から祝おう。

次回は「エルガイム」以降のMIOの足跡を追っていこう。

※1)民生用のCD発売が始まったのが1982年10月。当初は再生機も16万~20万円台。CD自体も1枚3,500円~3,800円と高額だった。それが、1984年、ソニーが定価5万円弱の小型の再生機を発売した。当時の状況下では衝撃的な価格だった。更にモニター募集と称して「この再生機とソニーレーベルのCD30枚をセットで」プレゼントするという販売戦略までして、ここで火がついた。僕もせっせと100枚くらい葉書を書いて応募したが、見事に外れた。たぶん、相当な応募が殺到したことだったろう。
※2)ダウンロード世代のために、念のため。LPとはlong playの略のこと。片面20~30分収録できた。EP盤とはシングル盤のこと。
下記のウィキペディアの頁を見てもらえば、具体的な見本写真を見ることができる。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89#EP.E7.9B.A4
※3)いくら僕がアニメ贔屓だからといって、古今東西の名だたる名歌手(歌劇も歌曲もロックもジャズも歌謡曲も)を無視して、MIOを頂においては、さすがに無知と言われても仕方あるまい。ここはがまんだ。
※4)もはやCDシングルさえ死語だろう。今は通常のCDをシングルとして発売している。たぶん、CDの製造価格が格段に安くなったためだろう。
※5)シングルレコードであるEP盤には主役のA面、脇役のB面という扱いがあった。
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[C7] 初めまして

MIO(MIQ)さん関連の記事楽しく拝見させて頂きました。
「GET IT!」は確かに素晴らしい!以前ネットラジオか何かに出演されていた際に「一番好きな持ち歌は?」という質問に迷うこと無く「GET IT!」を挙げていらっしゃったのを記事を読みつつ思い出しました。所有しているライヴCDにも嬉しいことに「GET IT!」が収録されており愛聴してます。
話は変わりますが2002年発売の「MACROSS THE TRIBUTE」というアルバムでマクロス7の主題歌である「SEVENTH MOON」を彼女がカヴァーしているのですが歌本編後のスキャット?フェイク?といい「GET IT!」と近いものがあり出色の出来だと思うのですが如何でしょう?それともアニメソングのカヴァーについては否定的な立場なのでしょうか?そういった話も是非お伺いしたいです。
  • 2011-10-29 01:12
  • hoo
  • URL
  • 編集

[C8]

知名度も売上も低いでしょうがComing Hey you!などMIQの歌を理解してくれる人がいて嬉しいです
  • 2012-01-10 18:08
  • t
  • URL
  • 編集

[C23] はじめまして

はじめてコメント差し上げます、波のまにまに☆と申します。kaitoさんからご紹介いただきまして、こちらにお邪魔させていただきました。

「Get it」は「ザブングルグラフィティ」の公開初日に、舞台挨拶がありまして、当時友人と二人で見に行って、その時に「ダンバイン、飛ぶ」と一緒にMIOさんの生歌を聴きました。いやもう圧倒されまして、中学二年生にはあまりに刺激が強すぎた体験であり、忘れ得ぬ想い出です。

記事で「歌いやすい」とお書きになっていらっしゃいましたが、曲の終盤でみるみるあがっていく音程を、MIOさんのオリジナルキーで歌うのって、男性のファルセットでもけっこうつらくないっすか?(笑)私だけですかねえ・・・

それはともかく、この大好きな曲を、こうして取り上げていらっしゃるブログに出会えたことがうれしく思います。またお邪魔しますね。
  • 2013-04-08 22:28
  • 波のまにまに
  • URL
  • 編集

[C25] こんばんは

いつもお世話になっております。
現在、弊ブログで富野由悠季監督の作詞した曲に関する話を書いておりますが、そのうち「ザブングル」およびMIO氏に関する話を書く際、貴兄のブログを多く参考させていただきました。ここで感謝の意を申し上げます。

http://kaito2198.blog43.fc2.com/blog-entry-1214.html

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