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長野の空気が運ぶ言葉 山川啓介「boy, 風になれ」前篇

特に何かあったわけではないが、小さなことの積み重ねから、人生の節目になるような心境の変化があった。その結果、家族と過ごす時間を優先するようになり、文章を書くための時間を削ることにした。仕事も忙しい。
訪問してくださる方々には申し訳ないと思いつつ、3か月が過ぎている。
あまり、まとまった文章を書く時間は依然としてないのだが、こつこつと書いていきたい。
Mr. Monday Morning
出典;MIO 「Mr. Monday Morning」 KING RECORD 1985 K28A-727」 ジャケット表

MIOの第二アルバム「Mr. Monday Morning」は、解説書の記載によると1985年の9月10日から10月15日にかけて録音されたらしい。発売はその年の12月という記録が残っている(※1。
http://himestory.com/miq_discography.html
曲目は全10曲。
A面
1) BOY, 風になれ
2) Mr. Monday Morning
3) ガラスの黄昏
4) Secret Trip
5) パラダイス・ナイト
B面
6) Time for L-GAIM(英語版)
7) GET IT! (英語版)
8) Dunbine Fire(英語版)
9) Bad Girlに愛をこめて
10)セレナーデは秘めやかに

音楽製作の現場監督は新田一郎。
以前にも触れたが、「エリア88」の音楽製作を仕切り、劇性を強く秘めた歌曲をMIOに提供した人物だ。「エリア88」の歌が好評だったので、MIOの第二アルバムの製作を依頼された―とみるのが素直だろう。
果たして、新田の監督ぶりなのだが、これがけっこうよいのだ。
と、いうか、かなりよい。
もっと言えば、素敵だと言いたいくらいだ。
この第二アルバムは知名度は更に低いのだが、実際の聴き心地のよさは第一アルバム「スターライト・シャワー」を上回っていると、僕には感じられた。
長らく耳にしていなかったレコードなのだが(恐らく25年くらいは聴いていない)、今回、針を載せた途端、「何でこんないい歌、記憶に残ってねえんだ!? 馬鹿だわ、俺!!」とうめいてしまった。
それでは例によって、1曲ずつ紹介していこう。

1曲目「BOY, 風になれ」は作詞:山川啓介、作・編曲:新田一郎の布陣。
山川啓介の名は、知らず知らずのうちに僕の脳裏に刻まれている。
僕ら昭和40年代から50年代生まれにとっては、無数の特撮・アニメソングで心に熱い炎を注いでくれた人、として記憶されている。
ウィキペディアの山川啓介の記事

残念ながらというか、いつものことだが、ネットで知れる彼の略歴はウィキペディアの記載の流用だけだった。
「山川 啓介 1944年10月26日生 は、日本の作詞家。本名・井出 隆夫(いで たかお)。長野県佐久市出身(本籍は南牧村海尻)。長野県上田高等学校、早稲田大学文学部卒。作詞家・脚本家・音楽構成家・舞台構成家・訳詞家として活躍。」
終戦前の長野県の高原地帯に生誕し、高校まで地元で過ごした後で上京、激動の60年代を早稲田で過ごしたわけだ。
詳細は調べていないが、南牧村にしても、現在の佐久市にしても、高原の広がる地域のようだ。南牧村は標高日本一だそうで、宇宙電波観測所まであるという。
佐久市も今でこそ、高速道や新幹線の恵みで交通の要衝となっているようだが、基本的には田園都市だろう。
佐久市
南牧村
長野市と空襲
昨年、長野を訪れる機会があったが、澄んだ空気ときれいな水が強く印象に残っている。都会でなかった分、長野県は全般的に激しい米軍の空襲に見舞われることはなかったようだ。農村であったから、戦後の食糧事情も決して悪いものではなかったのではないか?(※2
そんな土地で高校生までの多感な時期を過ごしたからだろうか。山川の歌詞は、人を元気づけ、励ましてくれる力、人生を前向きに捉えようとする力が溢れている。

寄り道になるが、山川の作品の中でどうしても外せない歌があるので触れておきたい。
宇宙刑事シリーズに彼が寄せた歌詞のことである。
「宇宙刑事ギャバン」は1982年3月から、全国ネットで金曜の午後7時半という恵まれた時間帯で1年間放送された特撮番組だ。まだ特撮番組が高視聴率を期待された時代だった。
70年代に多数の特撮ヒーロー番組を製作していた東映だったが、当時はその勢いも衰え、唯一、戦隊シリーズだけが継続している状況だった。この状況を打開するために、単独ヒーローでも存在感のある番組を目指して「宇宙刑事ギャバン」が企画・製作された。
主筆脚本に迎えられたのは上原正三。それまでにも多数の特撮・アニメ作品に携わり、いくつもの物語の基本様式を確立した人物だ。
この作品では主人公ギャバン対宇宙犯罪組織マクーの戦いに、父と子の絆の物語を絡ませて、作品に深みを加えていた。
多少、目先を変えたとしても、東映特撮番組の基本構造(敵の怪人・怪獣が敵対行動を仕掛け、それを主人公が阻止する。番組の終盤は主人公と敵の対決で終わる)が変わらぬ以上、個々の作品は大同小異になりかねない。上原は声高にならないように配慮しながら、父と子の絆を通奏低音のように描き続けた。
小さな描写を積み重ね、積み重ね、最終回の1話前にあたる第43話の「再会」で、手綱を解き放ち、特撮番組の域を超え、全篇をただ父息子の物語に開放した。
それは当時の視聴者に強い印象を与え、ギャバンは様式が画期的であると同時に、人の物語としても忘れえぬ存在となった。

と、言いながら僕は塾通いでギャバンの本放送は観ていなかったりした。それどころか、そんな番組があることすら知らなかった。だが、友人がこの番組にいれこんでいて、同人誌まで作って僕に売りつけたりしてくれた。
僕は後日、大学生になってからレンタルビデオでギャバンを観た。もう20歳になろうかという頃だったが、前述の「再会」には泣いたものだった。
そして、同時に渡辺宙明によるいかした劇伴音楽と、主題歌・副主題歌の群れに魅了された。
特に主題歌「宇宙刑事ギャバン」は、当時はもちろんのこと、中年を過ぎた今になっても、いや、中年を過ぎてつい弱気になることがある今だからこそ、噛みしめたくなる歌だ。
作詞:山川啓介、作曲:渡辺宙明、編曲:馬飼野康二、歌唱:串田アキラ‐最強の布陣である。

うたまっぷ.com 宇宙刑事 ギャバン

もし、君が男子なら、こんなブログを読んでしまうような嗜好なら、迷わず原曲を聴いてほしい。歌詞、音楽、歌唱が揃って力を与えてくれる。
ただの特撮番組の歌ではない。実生活での悲しみ、苦しみを乗り越えるための励ましになる歌だ。
僕はこの2か月ほど、心情が揺れると、繰り返しこの歌を聴いた。
46歳になるオヤジが、だ。
それを恥ずかしいとも、幼いとも思わない。
ここに記された山川の言葉をみてほしい。「ギャバン」という単語を除けば、そこに残るのは、ただひたすらの人生の応援歌ではないか。

男なんだろ? ぐずぐずするなよ
胸のエンジンに 火をつけろ

若さ 若さってなんだ ふりむかないことさ
愛ってなんだ ためらわないことさ

あばよ涙
よろしく勇気

具体的な物語は語られていない。具体的な事柄は、自分の人生を当てはめればいい。その時、これらの言葉がどう、自分の心に響くかだ。
渡辺の歌いやすくも力強い音と、串田の剛速球のようなたくましい声が、言葉を命の塊のように、僕にぶつけてくれる。
こんな言葉をぶつけられて、白けてなどいられない、そんな人間ではいたくない。むしろ、その言葉を血肉にして、次に続く人に伝えたい。
そう思わせてくれる歌なのだ。
もう一つ、繰り返し聴いた山川の言葉がある。ギャバンの続編「宇宙刑事シャリバン」の副主題歌「強さは愛だ」。
作詞:山川啓介、作編曲:渡辺宙明、歌唱:串田アキラの布陣。

うたまっぷ.com 宇宙刑事シャリバン

「強いやつほど 笑顔は優しい だって 強さは 愛だもの」
自分がいらいらしている時、他人(家族も含めて)に攻撃的な気持ちになる時、僕はこの言葉を思い出すようになった。意識して、そうしなければいけないと考えるようになった。
この言葉を聞いて、あなたは〝ベタ″と思うだろうか。
「特撮ではこんな台詞はありふれてるんじゃない?」と思うだろうか。
だが、僕は、この歌から発せられる言霊の力に胸を揺さぶられる。
先入観なしに、この歌詞だけを読めば、これが特撮番組の歌とはすぐに気がつかないかもしれない。この歌詞には宇宙刑事シリーズの設定を説明する語句はどこにもない。
やはり刻まれたのは、「人に優しく、たくましく生きろ」という前向きな気持ちだ。
「倒れたら 立ち上がり 前よりも 強くなれ」
この節での渡辺の奏でる旋律と、串田の手をつないで引っ張ってくれるような声が、山川が籠めた言霊を更に高めてくれるのだ。


心境の変化があって、以前よりも穏やかな気持ちを持てるようになったのだが、早く「アニメ音楽の物語」を再開させねばならないと思っていた。
最初は「BOY, 風になれ」から再開だな‐
そう思って、作詞をみると山川啓介とあった。よく知った名前であり、きちんと略歴をみてみようと思って調べたら、僕をこの2か月、折々に励ましてくれた歌の作詞も、彼の手によると今さらながらに気がついた。
縁、というものを感じた次第だった。

さて、話を戻そう。ギャバン、シャリバン作詞当時(1981~1983年くらいだろう)の山川は37~38歳頃。今の僕よりもだいぶ若い。
当時は日本も元気だったし、山川も働き盛りの世代だった。前向きな力が、彼の筆に宿っていたのだろう。
20代を学生運動の渦中で過ごしたことは、彼の作風にどう影響しただろうか。一種の理想主義をもたらしただろうか。

願えば、夢はかなう。
正義は、勝つ。

そうした考え方を理想主義とするならば、山川の言葉は一見、その通りにも思える。
でも、当時の学生運動は思いっきり、挫折した。
学生の理想主義は凄惨な内部闘争による、その言葉通りの仲間同士の殺し合いに発展したり、組織外の人間は全て敵であると無差別に人を殺したり、あるいは立て籠もった大学の中で孤立し、徹底的に弾圧されたのだ。
その時代の空気を吸って、学生たちは、団塊の世代たちは敗北感に満たされ、闘いを放棄して以後、関わることを拒否し、白けた後に弾けたバブル経済で憂さを晴らした。
だが、それを経験してもなお

若さ 若さってなんだ ふりむかないことさ
愛ってなんだ ためらわないことさ

あばよ涙
よろしく勇気

強いやつほど 笑顔は優しい
だって 強さは 愛だもの

倒れたら 立ち上がり
前よりも 強くなれ
苦しみを 苦しみを 越えようぜ

と語るとするならば、それは人がそうではない弱い存在だからこそ、それを目指そうよという強い決意の顕れなのだと思う。
だから、何十年の時間を越えて、僕の心にこの言葉は届くのだ。

人は過去を振り向いて、ウジウジしてしまうのだ。
人は愛情に徹しきれず、ためらってしまうものなのだ。
人はボロボロ涙を流すものなのだ。
人は勇気を持てずにすぐに怯えてしまうものなのだ。
人は弱いから、笑顔を忘れてしまうものなのだ。
人は倒れてしまうと、苦しみの重さにいつまでもとらわれてしまうものなのだ。

だから、「強くなろうよ」という願いを籠めたのだ。
(中途半端だが、続く)

※1)いつものことだが、こうした些細なアニメ音楽に関する情報を確認できる公式な情報源は存在しない。全て、個人の努力に頼っている。僕としては当時のアニメ雑誌の広告欄だけでも閲覧できる画像データベースがあればなあと妄想してしまう。
※2)今の世代は知らない。だが、少なくとも僕らくらいの世代までは、太平洋戦争を巡る人々の労苦、戦後の復興までの労苦は、大なり小なり伝わっている。
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[C9]

STARLIGHT SHOWER、Mr.Monday MorningともにCDで再販されるそうですね。なんというタイムリー。これも管理人様の神通力でしょうか。
MIO(MIQ)さんについてどこまで掘り下げてくれるのか楽しみにしてます。
  • 2012-06-30 20:51
  • hoo
  • URL
  • 編集

[C10] マジですか!?

コメントいただき、ありがとうございました。
CD再販うれしいです。
寄り道しちゃいましたが、またがんばります。
  • 2012-07-01 23:54
  • 管理人です
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